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前へ どうやら自習だったらしく、ラッキーなことに先生はいなかった。 廊下での私たちのバカ騒ぎに、ほとんどの生徒は廊下に出てしまっていたけれど、数名残っていた子たちは怯えた表情で私の顔を見ていた。 「千聖・・・」 窓際、後ろから2番目。 頬杖をついて窓の外を眺める千聖の近くを、梨沙子がなんとも言えない表情でウロウロしている。 「あっもも!ほら、岡井さん。岡井さんが出て行かないから、ももが来てくれたよ!」 よっぽど気を使っていたのだろう、梨沙子はほっとした顔で、千聖の腕を軽くペチペチ叩いた。 「もも、ちゃん」 相変わらず緩慢な動きだけれど、千聖はしっかり私の方を見てくれた。立ち上がりかけたその肩を押してもう一度座らせると、私は空いていた隣の席に腰掛けた。 「・・・」 「・・・・・」 何ともいえない沈黙。肩に手をかけて、私たちはしばらく見つめあった。 「ぁ・・」 ほんの少し開いた千聖の唇から、細い声が漏れる。 「なぁに?」 「・・・あ、あの、いいの。何も・・」 「千聖。」 相変わらず、言いたいことは全然まとまっていない。でも、今を逃したら、もう二度と修復のチャンスは訪れないかもしれない。 「・・・千聖、もう一回聞くからね。千聖は、もぉが、お金のために千聖と付き合ってるって本当に思ってるの?」 梨沙子が小さく息を呑んだ。周りの生徒達の間からも小さなどよめきが起こっているけれど、私にとってはどうでもいいことだった。 「ももちゃ・・・だって、それ、は・・・私が・・」 「千聖のパパがどうとか、新聞部がどうとか、そんなことは関係ないの。私は千聖の考えてることが知りたいの。答えて。」 答えを聞くのは怖かったけれど、このままじゃいけないという思いが私の心を支えていた。 虚ろだった千聖の瞳に、ほんの少し光が灯ったように見えた。 「わ、私・・・私は・・」 震える声に、わななく唇。私は千聖の髪を優しく撫でながら、もう少しだけ顔を近づけた。 「もう、わ・・・わからなく、なって」 「うん。」 「寮の皆さんも、ももちゃんも、大好きなのに、私が・・・私のせいで・・・」 「違うよ!」 その時、ずっと傍らにいた梨沙子が、少し大きな声と共に割って入ってきた。 「あのね、ももはね、りぃとか熊井ちゃんといるときもいっぱい岡井さんの話をするんだよ。 岡井さんが元気ない時はいっぱい心配してるし、私に様子見てあげてって頼んできたりもするの。なのに、岡井さんはももの気持ちを疑うの?ありえない! そんなことするならね、もものこともぉ軍団に返してよー!ももはね、いつも岡井さんのことばっかりなんだから!」 「すぎゃさん・・」 「す・が・や!」 なぜか涙ぐんでいる梨沙子につられるように、千聖の顔がみるみるうちに歪んでいく。 「ももちゃん、ごめんなさい・・・」 千聖の腕が、私の首に絡みつく。自分から抱きついてきたのは、初めてのことだった。 心臓のドキドキがダイレクトに伝わってきて、私の鼓動も、それに合わせるように高まっていく。 「信じてくれるの・・・?もものこと」 柄にもなく、自分の声が上ずっているのがわかった。 「ももちゃんの気持ちを疑うなんて、私・・・本当にごめんなさい」 「千聖、よかった・・・・」 ずっと張り詰めていた糸が切れてしまったかのように、私は千聖の腕に崩れ落ちた。 ほんのり香る、バニラのコロン。あったかくて、柔らかい身体。千聖が私のところに、戻って来てくれた。 「怖かった・・・このまま、誤解解けなかったらどうしようって」 「ごめんなさい、ももちゃん」 「いいよ。ずっと苦しかったでしょう?でもこれからは、もぉのこと信じて。もぉも千聖が大好きだから。ね?」 ――パチ、パチ ―パチパチ どこからともなく拍手が沸き起こり、抱き合う私たちの頭上に降り注いだ。 感動の涙を流している生徒たちの輪の中には、いつのまにか集合していた寮生達もいた。 「お、お嬢様!あの!寮生だって同じですから!」 「そうです、私たちだってお嬢様が大好きなんですよ!不安にさせてしまってごめんなさい。」 「私これからも添い寝に行きますから!これは義務なんかじゃなくてむしろ私の趣味っていうか」 「かんちゃんは黙るケロ!」 恥ずかしくて少し体を離すと、好機とばかりに寮生がお嬢様のところへ集まって、次々声をかけ始めた。 「ありがとう、皆さん・・・本当にありがとう」 「お嬢様ぁ」 ――もう、大丈夫かな。 私はそっと席を立つと、千聖の教室を後にした。 「ツグナガさんの目にも涙、とかいってw」 「んん?」 去り際、舞美口調で後ろから話しかけてきたのはウメダさんだった。 「もぉの涙はね、量産しない分価値が高いの。千聖も寮生も泣きすぎなんだよ」 「ふーん。まぁ、それはそうだね。」 並んで歩き出すと、廊下の野次馬さんたちはいっせいに道を開けてくれた。 「・・・・ちょっと悔しいかも」 「ん?」 「ツグナガさんは、ウチがずーっっと悩んでたことをすぐ解決させちゃった。」 ああ、千聖のことか。 そういえば、ウメダさんは何でも抱え込んでしまうって舞美が言っていたな。今朝倒れたのだって、このことが関係あったのかもしれない。 「まあ、もぉと千聖はラブラブなんでぇ。こんなハプニングぐらいどうってことないんだよん。 ・・・それよりさ、あともうちょい頑張ってよね。さっき廊下から覗いてたよ・・・舞ちゃん。まだ解決してないんでしょ?あの2人」 抱き合う私と千聖を、そして駆け寄る寮生を、舞ちゃんはさっき陰からずっと見守っていた。ここからは、寮生に頑張ってもらわなきゃ。 「それじゃ、もぉ教室戻るから。」 「あ、うん。じゃあね」 渡り廊下の分岐点でウメダさんは生徒会室に、私は自分の教室へそれぞれ戻って行った。 その後。 終わっていたとはいえテストを放棄し、中等部の校舎で大騒ぎした私は、担任にこっぴどく叱られた上に反省文を書かされた。 舞美とまーさは止めに入っただけなので、お咎めなし。 ウメダさんはたまたま立ち寄っただけなので、同上(ていうかもぉに協力してたじゃん!)。 もちろん、千聖も私の急襲に合っただけなので以下略。 「ちぃーさぁーとぉー。反省文めんどくさぁーい!」 「ふふ、もう少しだから、頑張って!」 そんなわけで私は放課後の教室で、千聖が見守る中、ぶーぶー言いながら原稿用紙を埋めていた。 めんどくさー!なんて思いつつも、一応頑張っているのにはわけがある。 「ねえ、さっきのって本当なの?今日千聖のうちで夜ご飯ごちそうになったらぁ・・・」 「ええ。ちょうど、お父様が北海道にお仕事で行ったみたいで。昨日いーっぱい海鮮が送られてきたのよ。ウニも、カニも、かんぱちもあったわ。 お夕食は海鮮丼かしら。とれたてのお魚、いっぱい盛ってもらって、上からお刺身用のおしょうゆをトロトロー・・・」 じゅるり。 もう、千聖ったら私のこと乗せるのが上手いんだから! 「ね、ももちゃん。私おなかすいてきちゃったわ。急いで急いで!そうそう、今日のおやつはクレームブリュレ」 「あーうっさいうっさい!集中とぎれるからお黙り!」 千聖の家に遊びに行くのは、何気に今回が初めて。舞美の話だと、本当に想像を絶するようなお屋敷らしいけど・・・ドキドキとわくわくが重なって、何だか変なテンションになっている。 「夜遅くなってしまったら、千聖のお部屋に泊まっていったらいいわ。ゲームや漫画はないけれど、最近大きいテレビに変えてもらったから、DVDを見ましょう。あと、リップとパインがね・・・」 「もー、はしゃぎすぎだから。ウフフ」 目を輝かせる千聖を横目に、私はそのプランを実行に移すべく、あと数行の余白を埋める作業に取り掛かった。 次へ TOP
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前へ 窓越しに目が合ってしまった・・・ ウフッ、という声が聞こえてきそうな桃子さんのその笑顔。 そのプロフェッショナル的なかわいさが、何故だろう、いま僕には悪魔にしか見えない。 そのとき僕は、今おかれているこの状況が故意につくられたものであることを悟った。 だって、そこにいる桃子さんの楽しそうなその笑顔を見れば、桃子さんがこの場に来合わせた事が偶然では無いことぐらいすぐに分かる。 これは、まさか、罠だったのでは。 今さっきまでの自分の言動を思い返す。 凍りつくような冷たいものが背中を流れるのを感じた。 店のドアが開き、桃子さんが入ってきた。 やってきた桃子さんは、僕となかさきちゃんを交互に見ながらこう言った。 「え? なになに? なんでここに2人でいるのぉ?」 わざとらしすぎる・・・ 桃子さん、やはり何か企んでるな、これは。 なかさきちゃんの隣の席に桃子さんが座る。 先に口を開いたのはなかさきちゃんだった。 彼女もまた、現れた桃子さんを見て僕と同じことを思ったようだ。 「嗣永さん、ひょっとして何か企んでいるんですか?」 「ん? どういう意味?」 「だって、私にここへ来るように薦めたのはあなたじゃないですか」 「へ? そうなの? なかさきちゃん、僕に会いたくなって来たのかと」 「違います! そんな訳ないじゃないですか!」 キッパリと僕に言い放つなかさきちゃん。 ・・・・そりゃ、そんな訳無いですよね。そりゃそうですね。 「ど、どういうことですか、桃子さん?」 「いいんちょさんが少年に謝りたいことがあるって聞いたからさ、これは2人で話し合うべきだと思ったからセッティングしたんだけどぉ」 「謝りたいこと?」 「あぁ、さっきなかさきちゃんが叩いたりしてごめんなさいって言ってたことですか。そんなのはホント別に全然気にしなくていいですよ」 気まずそうに俯くなかさきちゃん。 そんな彼女を見て、桃子さんが話しを続ける。 重くなりそうな空気を察して、話しを続けてくれたのだろうか。 そういうところ、桃子さんはやっぱり大人だ。 ところが、その桃子さんが言い出したこと、それは僕を更なる大混乱に陥れるのだった。 「いいんちょさんは知ってたの?」 「え? 何をですか?」 「少年とくまいちょーのこと」 何だ? 僕と熊井ちゃんのこと? 何かあったっけ? いったい何を知ったっていうんだろう。 なかさきちゃんはその質問に返答もせず、ただ真顔で桃子さんの顔をじっと見ている。 YES or NO それさえも答えない、なかさきちゃんの取ったその態度はいったいどういう意味なんだろう。 沈黙するなかさきちゃんに桃子さんが更に話しを続ける。 「あの少年どうやら熊井ちゃんとそういう仲らしいんだかんな、って聞いたんだけど、なにそれぇ?」 言ったあと、桃子さんの顔が一瞬ニヤッと笑ったのを僕は見逃さなかった。 桃子さんは聞こえよがしにそれを言ってるんだ。 その証拠に僕の反応を確認するように一瞬だけ僕のことを横目で見てきた。 いま桃子さんは何て言った? そういう仲ってどういう意味だ? 桃子さんはどういう意味でその質問をしたんだろう。 頭の中をクエスチョンマークが渦巻く。 「もう、栞ちゃんは黙ってられないんだから・・・」 「その件でしたら、どうぞ御本人に伺ってみてください。私もその答えを是非知りたいので」 なかさきちゃんが桃子さんに答えたのだが、その答えの後半部分はそれは冷たい口調だった。 その忌々しそうな冷たい口調も合わせて、彼女がその件に関して相当不愉快に感じているようだというのは容易に見て取れた。 なかさきちゃんのその言葉を受けて、桃子さんが僕に向き直ってくる。 うふっ♪って顔をして僕を見る桃子さん。 こ、怖い。 「今の聞いてた? じゃあ教えてね。くまいちょーとそういう仲って、どういう仲なの?」 「あ、あのですね・・・ 質問の意味が分からないので、答えようが無いんですけど」 「じゃあ質問を変えようか。少年はさ、くまいちょーのことどう思ってるの?」 「どうって、どういう意味ですか?」 その僕の問いには答えず、ただ小首を傾げてじっと僕を見る桃子さん。 何も言わずに黙ったまま僕を見ている。黙ったままじっと・・・ その視線に耐えられず、思わず僕は叫んでしまった。 「ち、違いますよ!!」 「本当に違う? 自分の気持ちに気付いてないだけじゃないの? それとも気付いてないフリをしてるの?」 その質問に僕は答えることが出来なかった。 だって、答えが分からないから。自分でも分からないんだから、答えようがない。 だいたい、桃子さんは今とても真剣な顔をしてその質問をしてきているが、 これに対して僕がもし真面目な顔で答えを言ったりしたら、その瞬間に手のひらを返したように大笑いし始めるんじゃないか。 うん、そんな気もする。 っていうか、間違いなくそうだろう、今までの例から言っても。 でも、桃子さんのことは置いておいて、その質問の意味することに僕は自問自答する。 熊井ちゃんへの気持ち? 僕は気付いてないだけなんだろうか・・・ 黙り込んでしまった僕を見て、桃子さんが、やれやれというジェスチャーと共になかさきちゃんに話しを振る。 「だってさ。これ、どうする?いいんちょさん」 なかさきちゃんの声はさっきからずっと同じだ。 抑揚の無い乾いたその口調。 「別に、私には関係ないことですから」 感情を無理に抑えこんでいるような、無表情のなかさきちゃん。 そんな彼女を、桃子さんが黙ったままじっと見つめる。 次へ TOP
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前へ いま世の中はサッカーのワールドカップ一色。毎日が楽しすぎる。 僕も久しぶりにボールを蹴りたくなって、ここの公園にやってきた。 この公園はとてもいい公園なんです。広い敷地には自然がたっぷりで、散策するのに持って来いだし。 そして何といっても、この公園にはよく手入れされた芝生のピッチがあって、しかも自由に使えるからお気に入りなのだ。サッカーするのに土のグラウンドでは膝への負担がきついんです。だから、この芝生を目当てに、この公園にはよく来ることがあるんだ。 (*執∀事)<お屋敷から近いこの公園は、戦前までは岡井家の敷地の一部でした。戦後しばらく占領軍に接収されていましたが、返還される際にその一部を公園として寄付されたのだそうです。以上、執事長に叩き込まれた岡井家の豆知識でした。 つま先でボールを拾い上げる。そのままリフティングを開始。 そういえば、リフティングといえば思いだすなあ。 あれは小学校の時の話、こうやってリフティングをやってるときのこと。 あの時は調子が良くっていい感じに続いてて、記録を大台まで乗せられる予感がしていたんだ。 988・989・990・ 目標としている回数に初めて届くかもしれない。これは行けそうだ。 でも、あせるな、落ち着いていけ。 雑念を振り払い、しっかりと集中できていた。 だから、そのとき彼女がすぐ背後まで近づいて来ていたなんて全く気づかなかった。 991・992・993・ もうすぐだ。でもあせるな、あせるな。 994・995・996・ 平常心、平常心、ここが肝心。 997・998・ 「ウーッ、ハッ!!」 突然、背後にいた彼女が大きな声で変な掛け声を耳元で叫んできた。 !!! 心臓が止まるかというほど思いっきり驚いてしまって、ボールを明後日の方向に大きく蹴っ飛ばしてしまった。 999・・・ 大きく弾んだボールが転々ところがっていった。 記録、999回。 目前にして、大台達成ならず・・・・ 呆然として振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべて立っている熊井ちゃん。 そのほえーっとした笑顔を見たら、もう怒る気力も萎えてしまった。 懐かしいなあ。熊井ちゃんに驚かされて大台到達できなかったんだっけ。 今でも僕のリフティングの記録は、そのときの999回のままなんだ。 その後、何回も何回もチャレンジしてみたけど、何回やっても回数が900回を超えると次の901回で何故か熊井ちゃんのことが頭に浮かんでくるようになる、という現象が起きるようになってしまって。 そうなったらもう集中どころじゃなくなって、どうしても1000回を超えることができなかったんだ。 今となっては、もう新記録を作るのは無理だなあ。 今ではせいぜい数十回が限界だよ。 膝に力が入らなくて、だんだん感覚がなくなってきて。 ケガさえしなければなあ。 なんとなく切ない気分になりながらリフティングをしていたら、いつの間にか僕のことをじっと見ている少女が一人いた。 千聖お嬢様!! 「千聖お嬢様!! どうしてこんなところに? お一人なんですか」 「ウフフ、ごきげんよう。いつもの犬の散歩コースに舞美さんと来たんですけど、舞美さんがリップとパインを連れて一人で走って行ってしまわれて。ミニチュアダックスフントは、そんなに激しく走らせるような犬種じゃないのに。舞美さんらしいわ。ウフフフ」 マイミさんって誰だろう? しかし、お嬢様をひとりにして置いていってしまうなんて、それって無用心ではないのだろうか。 その人、相当そそっかしい人なんだろうな。 でも、そのお陰でお嬢様とお話できてるんだから、まぁ僕にとってはラッキーなことだけど。 「リフティング、お上手なんですね」 「見ていたんですか。お恥ずかしい」 「あんなに何回もできるなんて、すごいわ」 「昔はもっともっと出来たんですよ。あ、疑ってますね。本当なんですって」 クフフと小さく笑うお嬢様。 この笑顔を見れたことで、今日は一生思い出に残る日になりました。 「サッカー、おやりになってるんですか?」 「部活でやってました。去年までですけどね」 「あら、今はやっていらっしゃらないの?」 「右膝をケガしてしまいまして。もう元のようにはプレー出来なくなるって言われたのでやめちゃったんです。あははは」 わざと明るく振舞ってみたが、やっぱりお嬢様の表情は曇ってしまった。 お嬢様にそんな顔をさせてしまうなんて、申し訳ないです。本当に。 僕なんかの話にもそんなに熱心になって下さるなんて。千聖お嬢様ほど心がキレイで優しい方を僕は知らない。 「そうですか、おケガを・・・ごめんなさい、何か余計なことを聞いてしまったみたい」 「いいえ、全然。こちらこそ辛気臭いこと言ってすみません。」 「そんな。今はもう大丈夫なんですか?」 心配そうな表情で聞いてくるお嬢様。その表情に僕は一発でやられてしまいました。 うわぁ、お嬢様のこの表情、正直たまりません。ケガしたことがこんな形で僕に返ってくるとは、人生何が幸いするかわからない。 こんな表情を僕に向けてくれるなんて、今日は一生思い出に残る日になりました。 「日常生活する分には特に。でも膝にあまり負担をかけられないので、気を使いますけどね」 「そうですか。それはご苦労がおありでしょうね」 「それほどでもないですよ、お嬢様。いや、僕のそんなことより、ひょっとして、お嬢様もサッカー好きなんですか?」 「えぇ、サッカーはとても好きです! 見るのも好きだしやるのも好き」 へぇ、サッカーが好きなんだ。なんか意外だな。 お嬢様と言われるような人なんだから、もっとこうインドドア派なのかと思ってた。 まぁ、今は世の中がワールドカップ一色だから、普段は興味ない人もみんなにわかサッカーファンになってるからなあ。 お嬢様もそれと同じ流れかな? にわかファンみたいに「本田△!!」とか言ってたりしてw 「そうなんですか! じゃあ、ワールドカップも見ていらっしゃいますか」 「えぇ、毎日見ています。日本の試合は興奮しましたわ! 初戦のカメルーン戦のカウンターからの本田選手のゴールは嬉しかったわ、初得点でしたし耐えた時間の後のゴールでしたから。 そのとき本田選手がゴールを決めたあと、真っ先にベンチに駆け寄って控え選手の方たちに飛びついていらっしゃいましたよね。 あれを見て、このチームは選手全員が一緒になって戦っていらっしゃるんだわ、と思いました。 チームにとって何よりも大切なのは、チームとしての団結力ですから。 そういった意味で今の日本代表チームは素晴らしいチームだわ。 それからデンマーク戦で決めた2本のフリーキック。本田選手の無回転シュートには興奮しました。 でも、それ以上に遠藤選手のフリーキックが素晴らしくて。遠藤選手は千聖が一番注目している選手なんですけど(ry」 めっちゃ語りだしたw お嬢様、詳しすぎる。 言ってることは的を得ているし、よく見てる証拠だね。しかし、これは驚いた。ここまでのレベルとは。本当に好きなんだな。 しかも、本田より遠藤の方に注目しているとか、なんて渋いんだw 「もちろん僕も見てました。興奮しましたよね。お嬢様は遠藤選手が好きなんですか」 「えぇ。日本の攻撃は遠藤選手から始まりますから特に注目して見ています。遠藤選手はミスも少ないし、周りをよく見ていらっしゃるし、まさに日本の心臓にふさわしい動きをされていますわ」 「そうですね。全体が守備から攻撃へ切り替えたときに起点になる遠藤選手がミスをしたら致命的なピンチに直結してしまいますからね。そこでミスをしない遠藤選手はさすがベテランって感じですよね」 「あら、なかなか詳しいんですね。千聖の話しについてきて頂けるなんて」 「あ、ありがとうございます」 「嬉しいわ。サッカーの話しをしても寮の方はいつも最後まで聞いてくださらないんだもの」 なんか褒められちゃったw サッカーの話しをするだけでお嬢様にお褒めの言葉までいただけるなんて。 これは美味しいぞ。 まだまだついて行けますよ。お嬢様、遠慮なく語っちゃって下さい。 「あとは注目しているのは森本選手、なかなか出番が無いみたいですけど。途中出場で出ないかいつも期待しているんですけど」 森本とか。やっぱり渋い。渋すぎる。 ふつうミーハーな女の子ファンなら玉田とか内田あたりのイケメンと呼ばれてる選手の名前が出そうなもんなのに。 それなのに、そこで出る名前が森本なんだw よくわからないが、さすが千聖お嬢様だ、って感じがする。 「お嬢様は外国のチームではどこが好きなんですか」 「アルゼンチンです!! 特にメッシ選手は大好き。それからイグアイン選手とテベス選手とのスリートップ。攻撃的でとても魅力的なサッカーだわ。それに何といってもマラドーナ監督。アルゼンチンは大好きです」 「それは奇遇ですね。僕もアルゼンチンが一番好きなんですよ!」 お嬢様と2人っきりでのお話し。 心が癒されていく。お嬢様とお話しした時はいつも、どんどん優しい気持ちになれるんだ。 世の中の人がみんな千聖お嬢様とお知り合いになれれば、犯罪だの戦争なんてものはこの世から無くなるかもしれないのに。 それにしても、本当にサッカー好きなんだな。これは驚いた。 でも、僕もサッカーの話はもちろん好きだから、これは嬉しい。 よーし、今日はまだまだ語り合いますよ、お嬢様! 僕のテンションも上がってきてさあこれからと思っていた時、そこに声をかけて割り込んできた人がいたのだ。 せっかく、お嬢様と2人きりだったのに。 誰だ、邪魔をするのは! こういう空気を読めないことをしてくる人といったら、どうせ熊ry 「ここでしたか、お嬢様ぁ。探しましたよー」 次へ TOP
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前へ 「何も悪いことじゃないんだけどねぇ」 「そう、別に悪いことじゃない」 ライブを率先して盛り上げるのは素晴らしい心がけだし、現にお客さんたちだって喜んでいる。 だからこそ、この行き場のないおかしな感情は、私と千奈美の中でくすぶっていて、排出口のないままガスを溜めているのだ。 バラードはいつの間にか終わり、今度はポップなイントロが流れ、照明も黄色やピンクの可愛らしいものに変化している。 不思議な事に、梨沙子の声援は消えていた。 疲れてしまったのか、バラードで叫んでしまったことを反省して自粛しているのか。その胸の内はわからなかったけれど、そのことも何となく引っかかった。 “みなさぁーん!ちゃんとついてきてますかぁ~???” 私の心を見透かしているかのように、ももの声が響き渡る。・・・おお怖い、常に客席の端から端まで見えているのかお前は。アイドル超人め。 「あー、ももうっぜ。・・・よし。整理しようぜ、茉麻」 「おう」 「だからぁ、何でみやびが張り切ってるとうちらがへこむのかって言うとぉ・・・あ、てかみやびやっぱ上手いよね、歌。うわ、ももの声うっぜ。あいりんちゃんもふわふわしてていいね。てかもものMCうっぜ」 「・・・本当、桃子のこと好きだね君は。じゃなくて、話飛びすぎだから。整理するんでしょ?」 常に関心のある方向へと脱線しまくるのが千奈美の癖だから、こうなると私が軌道修正を図るのがいつものパターン。 「あ、やっぱあとでいいや。ライブ見たいし」 「なんじゃそりゃ」 気まぐれに振り回されつつも、今はステージ見たいっていうんなら仕方ない。ま、もともとそのために私たちはここにいるんだしね。 私もひとまず難しいことを考えるのはやめにして、前方に注意を向けることにした。 それにしても・・・本当に大盛況だな。今日のステージ。 学園内はまだわかるんだけど、よその学校の制服の女子や男子、はたまたちびっ子からおじーちゃんおばーちゃん世代まで、大変な人数のお客さんが体育館を埋め尽くしている。 「あ、ちょっと見て茉麻。ぷぷっ」 大人しくライブを楽しんでいたはずの千奈美が、ぐいぐい腕をひっぱってくる。 指さす方向に目を向けると、そこは舞台袖。 そのカーテンの端っこから、小さな頭がぴょこんと飛び出して、ステージの3人をじーっと見ている。 「・・・千聖お嬢様じゃん」 「だよねー!顔ちっさ!てか、さっきからずっとああやって見てんの。子犬みたい」 まるで、ちびっこが憧れのおもちゃに見入るような熱視線。 お嬢様は恍惚の表情を浮かべて、生首状態のまま微妙に揺れたりハミングして楽しんでいる様子だった。 「・・・ぷっ」 「ひひひ、写真撮って記事に載せてやろ。梨沙子怒るだろーなー。“岡井さん職権乱用だもん!”とかいって」 今年、ステージ係を引き受けたお嬢様が、Buono!に夢中になっているのは知っていた。 生徒会の仕事中も、ふと気づけば楽曲を口ずさんでいる。それについて突っ込めば、嬉しそうにBuono!のうんちくを教えてくれる。 そんなお嬢様だから、今日のステージも裏から全力で楽しむんだろうなとは思ってたけど・・・出てますやん、顔。思いっきり。 「かーわいーなぁ」 そうこうしているうちに、舞ちゃんが一瞬だけ顔を覗かせて、不機嫌そうに千聖お嬢様のお顔にカーテンをかけてしまった。 抵抗するかのように、お嬢様は再び顔を出す。そこに舞ちゃんのカーテン。負けずにお嬢様の顔ズボ。舞カーテン。 しまいには超大きな手がぬーっと現れ、2人の頭をガシッと掴んで引っ込めてしまった。・・・熊井、乙。 「わはは、お嬢様にあんなしつれーなことできるのって、萩原さんと熊井ちゃんぐらいだよね」 「まー、お嬢様Buono!ヲタだから、舞ちゃん的には嫉妬の対象なんだろうねぇ。熊井ちゃんはフリーダム」 お嬢様が夢中になっちゃうのもよくわかる。何ていうか、3人は特別輝いている存在だから。 身内びいきもあるかもしれないけれど、3人ともそこらのアイドルに引けを取らないぐらい可愛くて、歌も上手くて、華やかで。 1部熱狂的支持層(Sぎゃさん)なんて、芸能界デビューだって夢じゃないもん!などと熱弁していたっけ。んま、それはさすがに言いすぎだと思うけど・・・。どうなんだろう。 もちろんパフォーマンスだけでなく、キャラ立ちだって完璧。 観客全員を自分の虜にせんとばかりにアピールを欠かさない桃子に、意識せずとも自分の世界に人を吸い寄せてしまう愛理。 雅は要領がよくて、なおかつ俯瞰で物事を見れるタイプだから、その時々の状況に応じてグループのバランスを・・・ 「・・・あっ!」 「え、何、びっくりしたぁ」 「わかった、千奈美。私・・・いや、私たちが感じていた違和感」 突然、頭の中に電光石火のひらめき。 ラスト1曲!の雅の掛け声を耳にキャッチしながらも、私はそっちには気をやらず、千奈美をまっすぐ見つめて肩をガクガクと揺さぶった。 「まーさん、落ち着いてけろ。何いきなり」 「・・・雅が元気に、今日のステージを盛り上げることは何の問題もないんじゃん。うん、いい事!これはいい事!でしょ?」 語りながらチラッと見たステージ上の雅のその表情、その熱視線は、私のその仮説を裏付けているかのようで・・・。 「問題は、その雅のパフォーマンスがどこに向かっているのかっていうこと」 「どこにって」 「雅はさ、何気にいつも俯瞰で物を見るじゃん。個人プレーに走ってるように見えても、誰かが過剰に得したり損したりしないように、調整をかけてくれてる」 「ごめん、まあさん、話が見えないんだけど」 「ステージだってそう。桃と愛理の全然スタンスの違うパフォーマンスを、雅が1歩引いてバランス取る事で辻褄を合わせているの。いや、いたの。去年はね。・・・でも、今年は違う」 そこまで一気に喋ると、私は手元のお茶を一気に飲み干した。 「雅は多分、今日、誰か一人のために歌っている。声援に応えるのも、ファンサービスも、上手くいえないんだけど、その“誰か”に向けてやっているように見える。全然、見えてないの。周り」 ♪生まれてきてオメデトー なんて言われたいじゃない? 軽やかにそう歌い上げる雅の視線&指さしは、やっぱり確実に、どこか一点に定まっている。 「・・・男、できたんかな」 「いや、雅は男子にはあんなに愛想よくしないから。もっと厄介な存在のような気がする。つまり」 ね、そうですよね。・・・って、あれ? 一方的に同意を求めようと、視線を向けた最前列。そこに、いるはずのあの子がいなかった。 「・・・梨沙子がいない」 「え?あー、ほんとだ。お便所じゃね?」 「まさか。梨沙子に限って、それはない。雅のステージ中にそんなとこ行くくらいなら、いっそ・・・」 「何それ怖い」 「ごめん、心配だから、見てくる」 もー、なんなの茉麻!という叫びを背に、私は出口へ足を向けた。 雅のことも気がかりだけど、可愛いベビーちゃんの梨沙子も心配でたまらない。 「なんなんだ?今年に限っていろんなことありすぎ・・・」 次へ TOP
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前へ 先日の出来事、あれはひどい話しだった。 せっかく舞ちゃんが僕の家に来てくれたというのに、一緒に来た大きな熊さんに全て持っていかれてしまった。 夢のようなひとときになるはずだったのに、熊井劇場と化してしまった僕の部屋。目眩でクラクラする。 あそこまでやられると、一周回ってもう笑うしかないけど。 しかも、最後はあんなひどい展開・・・・ それに対しては舞ちゃん、自分には無関係のこととして流してくれたようだ。 熊井ちゃんのいつもの暴走ということで、僕の方が被害者の立場だというのを理解してくれてるのだろう。 (あの時の、ちょっと顔を赤らめたように見えた舞ちゃん、めちゃめちゃかわいかった・・・) でも、あんなドタバタ勉強会になってしまったにも関わらず、舞ちゃんの機嫌は決して悪いものにはならかったように見えた。 僕の家に来たときのあの固い表情に比べると、舞ちゃんのその表情は帰りのときの方が明らかに柔らかくなっていたし。 うん、それは確かに。 やっぱり、あの日舞ちゃんと直に言葉を交わすことが出来たってのが大きい。 コミュニケーションってやっぱり大事だ。そうやって僕らの心は通じあうことが出来たんだから。 あの勉強会のあと、僕と舞ちゃんの仲が以前よりもずっと近いものになったのは間違いないだろう。 うん、そこは本当にそう思う。僕らの距離は確実に縮まってきているのが実感として感じられているんだから。 一緒に勉強をしたというその既成事実もあいまって、これから僕らの間は何か進展するかもしれないな。 (※筆者注・ここまでのお花畑的思考はもちろん全て脳内) 舞ちゃんとのそんなことをじっくりと考えながら、ゆっくりと歩いていく。 僕はリハビリのために毎日長めの散歩をするように心がけているんだ。 だから、今もそのリハビリのためなんだけど、今日はこの林道を歩いている。リハビリのために。 その林道をリハビリのために歩いていたら、なんとまあ、お嬢様のお屋敷の前に出てしまった。 やあ、これは何という偶然なんだらう。 お屋敷の門の前で立ち止まる。 この場所での出来事、あれから何日経ったのだろう。 再びここに戻ってくることが出来た。 でも今日は、あの時のようにそこにお嬢様が待っていてくださるということは無かった。 立派な門構え。今は人気も感じられず、ただひたすら静かな時間が流れているその門の前に僕は立った。 せっかくここまで来たんだ。 入院のことでお嬢様にはお世話になったのだから、ここはお嬢様にお伺いして直接お礼をすべきなのではないか? そう、アポイントなんて無いけど、お屋敷にお伺いする口実としては十分な理由だ。 でも、目の前に聳え立つ、この門構え、この格式。 世界の違いを感じてしまい、どうしても気後れしてしまう。 とてもじゃないが僕ごときが呼び鈴を押すことなどできなかった。 かと言って、諦めもつかない。このまま立ち去ってしまうのは名残惜しい。 だから、何かきっかけのようなものにでも出会えないかと、門から塀沿いをゆっくりと進んでみる。 (歩き回るのはリハビリになりますからね) 長い長い真っ直ぐに続く塀。 でも、もちろんお嬢様の気配なんか微塵も感じられなかった。 足を止めて立ち尽くす。 見上げると青い空に浮かぶ白い雲。 夏らしい高い空からは、強い日差しがふりそそいでいる。 もうすぐ夏も終わりだなあ・・・ 残暑お見舞い申し上げます。 しばし佇んだあと、空しくなってきた。 ここまで来たけど、残念ながらお嬢様には会えないみたいだな。 寂しいな、切ないな、せめて一言、なんて思いながらお屋敷を後にしようと背を向けたとき。 聞こえたんだ、確かに。 ごくごく小さい音だったけど、水のはねるような音がかすかに聞こえた。空耳なんかじゃない。確かに聞こえた。 今日プールが開かれている!? それを知ってしまったからには、僕の取るべき行動は決まっている。この機会を逃すわけにはいかない。 思わず柵に飛びついて中をがっつりと覗き込んでしまった。 どこだ? どこでやってるんだ? 必死で覗き込むが、それっきり水音も聞こえず様子も全く分からなかった。 まぁ、外から覗けるようなところでプールが開催されているわけもないだろうけど。 お屋敷の柵に、飛び越えんばかりに飛びついて中の様子を伺う僕。 これじゃあ、思いっきり不審者だ。 そんな僕の姿は防犯カメラでバッチリと捕捉されていたようだ。 静寂を破って、とがめるような声が僕の耳に入ってきた。 「そこで何をしているんですかァ!?」 この声。 聞き覚えのあるこの声。 「!! 執事さん!」 「なんだ、君か。こんなところで何を?」 「プール、やってるんですよね!」 「え? えぇ、今日がこの夏最後のプール開催日です」 「執事さん!!」 「な、なんでしょう・・」 「僕を中に入れてください!」 「はぁ??」 「それを見なければ僕は一生心残りになってしまうんです!だから僕をプールに!」 何を言ってるんだこいつは、というドン引き顔の執事さん。 「そんなわけにはいかないですよ」 「何でですか!!」 「何でって・・・そんなの当たり前じゃ・・」 「僕は行かなきゃならないんだ。お願いです!僕をプールサイドに!!」 頭がおかしい人間を見たとき、人はこんな表情をするよね。 でも、そのとき僕は本当に必死だった。 熊井ちゃんと一緒に来れば良かった。 彼女が一緒なら、やりたいことを気ままにやる彼女が一緒なら。 僕は、そんな彼女についていきさえすれば、プールサイドに行くことだってきっとあっさりと実現したことだろう。 でも、いま彼女はいない。僕ひとりなのだ。 そんなこの場に、思いがけない人が現れたんだ。 敷地の中、ここを通りがかったその人が、のんびりとした口調で声をかけてきた。 「あらー、もうケガの方は良くなったんですかぁ?」 「あ、愛理ちゃん!!」 「す、鈴木さん!!」 そこにいたのは、愛理ちゃんだった!! あ、あ、愛理ちゃん!? うわぁ、本当に愛理ちゃんだ!! 彼女はパーカー姿だったのだが、そのパーカーの裾からは、すらっとした生足が伸びていた。 その格好、そうか愛理ちゃんは今プールに向かっている途中なのかもしれない。 ってことは、そのパーカーの下は、たぶん、み、み、み、水着姿ってこと? 彼女のその長く美しいおみ足、なんと眼福なことか!! つい見とれてしまいそうになるが、その白さもまぶしい太モryを見るのは一瞬だけにした(モニター越しのそちらからの殺気を感じるので)。 そのように僕は見とれることを自粛したというのに、目の前の執事さんは全くお構い無しにその視線を愛理ちゃん一点にロックオンしているようだ。 うわー・・・ 愛理ちゃんの全身をガン見しちゃってるよ。 信じられない、この人。 でも、まぁ気持ちはわかる。 だって、愛理ちゃんが水着姿で目の前にいるのだ。それを見て平然としていられる男なんかいるわけがない。 しかもですね、ズバリ水着姿が見えているのではなく、パーカーで隠されてるのが余計に想像力を刺激して(ry 愛理ちゃんを見つめて固まっている執事さん。 小うるさいこの人が黙ってしまったのは、僕にとってこれ幸いだ。 そんな僕に、愛理ちゃんが話しかけてくれた。 「今日プールがあるって知ってたんですか?」 「いえ、リハビリで散歩をしていてですね、偶然なんです」 「そうですかぁ」 「あの、さっきの・・・ 僕のケガのこと知ってるんですか?」 「もつろん。寮生みんな知ってますから。ケッケッケッ」 もつろん、って言ったw カワイイ・・・・・ ホント、愛らしいひとだなあ。その上、落ち着いていて理知的で。 その名前どおりの女の子だよ。親御さんもまた、見事に似合う名前をつけたものだと思う。 でも、今のその笑い、なんか含むところがあるように聞こえたのは気のせいか。 まぁいい。 それより、寮生みなさんがそんなに僕のことを心配されてたなんて・・・感激です。 「寮生の方がみなさん御存知・・・そうなんですか!」 「特に舞美ちゃんが気にしてて。その舞美ちゃんからよく聞いてましたから。入院中いつも熊井ちゃんと一緒なんだよ微笑ましいよねあの2人!ってw」 あ、まただ。 笑顔なんだけど、何か裏の意味がその目には宿っていませんか。 何というか、若干黒いオーラが混じっているような・・・ 「いや、全然微笑ましくなんかなかったですけどね・・・」 「ゴホン!」 執事さんがした咳払いで僕らの会話が途切れた。 柵越しではあるが、愛理ちゃんと会話をするという幸福を存分に味わっているところに、割り込むように執事さんが口を挟んでくる。 「ここで柵越しに話すというのも警備上アレですので、あとは私にまかせて、鈴木さんはどうぞプールの方へ」 「さぁ、君も自宅に戻られて安静になさってください。お大事に」 この執カス(怒)!! 僕らの邪魔をしてくる相手に手を出そうにも、この柵が僕の行く手を阻む。 柵を掴んでいる手がプルプルと震える。 この柵が、僕と目の前の愛理ちゃん、そしてひいてはお屋敷の皆さんとの間を無情にも分断している。 無力だ。いまの僕は自分では何も出来ない。 そんな僕を、その大きな目でじっと見ていた愛理ちゃん。 すると、彼女が信じられないような言葉を口にした。 それを望んでいた僕でさえ、まさかと思うその言葉を。 「あの、お嬢様も気にされていたようですし、良かったらちょっとだけ中へ入ってお顔を見せていきませんか?」 「す、鈴木さん!」 「あら、やっぱりダメですか?」 「お嬢様の判断を仰がずにそんなことは・・・」 「私の判断なんですけど、いけませんか、やっぱり?」 「いえ!鈴木さんがそう思われたのなら結構です!」 「ありがとうございますぅ執事さん♪」 執事さん、何か死にそうな顔になっちゃってるけど、大丈夫なんだろうか、この人。 魂を抜かれたようなうつろな視線で執事さんが僕に向き直った。 「・・・・どうぞお入りください」 おい!僕には態度が全く違うじゃないか。何だ、その棒読みは。 僕にはあからさまに投げやりな口調を向けてくる執事さんだったが、しぶしぶ裏門の扉を開けて僕を中に入れてくれた。 こうして、ついに僕は岡井家のお屋敷に足を踏み入れたのだ。 (正門じゃなくて裏門からとは、ぴったりだかんな!この間男が!) 3人で連れ立って歩いていく。 愛理ちゃん、執事さん、そして僕という3人の並び。なんだ、この組み合わせ。 ここが千聖お嬢様のお屋敷。 ぐるりと周りを見渡す。 隅々まで手入れが行き届いている植栽。風格のある重厚な建物。 僕が普段目にしている風景とは全く異なる世界がそこには広がっていた。 初めて見る風景に圧倒されながら歩いていく。 そんな僕の横には愛理ちゃんがいるのだ。愛くるしいニコニコとした表情で。 ま、なんか淀んだ顔で僕を監視してる様子の執事さんも一緒なんだけどさ。 そんなとき、彼のケータイが鳴った。 「えっ、なんですか。またそんな無茶振りを・・・・ハイわかりました・・・ すぐ伺います」 「鈴木さん、すみません。僕は有原さんから呼び出されてしまいました。これで失礼します」 「忙しいですねぇケッケッケッw どうぞ、わたしにはお構いなく」 その去り際、僕のことを露骨にすんごい目付きで睨みつけてくる執事さん。 な、なんだよー・・・ そんな彼に、愛理ちゃんが声をかけたんだ。 「あっ、そうだ、執事さん」 「な、なんでしょうか・・・」 「今朝のスクランブルエッグ、とっても美味しかったです。さすがですね!」 愛理ちゃんからお褒めの言葉をかけられたというのに、それには返事もせず慌てたようにすっ転んだりしながら行ってしまった執事さん。 なんなんだ、あの人は。大丈夫なのか? 執事さんは行ってしまった。 ということは、僕は愛理ちゃんと2人っきりになってしまったということじゃないか! 次へ TOP
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前へ 「きっと学園のみんなも喜ぶと思いますよ、お嬢様が部活動の見学にいらっしゃったら」 数十分後。 制服に着替え、学校へ向かうわれわれ一行の先頭には、なぜか舞美ちゃんが陣取っていた。 「今日、大学が休講でよかった。お嬢様に一日お付き合いしますからね」 モサフリピンクジャージが、歩くたびにシャカシャカと衣擦れする音がなんだか懐かしい。 お嬢様の授業の間どうするとか、先生たちへの説明をどうするとか、全然考えてないんだろうな。 それでも、この一行に、舞美ちゃんが戻ってきてくれてるこの状況、うまく言えないけれどすごくウキウキしている。 お嬢様も同じように感じているのか、しきりに話しかける舞美ちゃんをじっと見ながら、何度も目を三角にしてはうんうんとうなずいている。 「舞ちゃん、お嬢様取られちゃってるよ?ケッケッケ」 「・・・イジワル言うなよ、もー」 舞ちゃんの声がいつもよりとげとげしくないのも、かなわないからってだけじゃなくて、やっぱりどこか懐かしくうれしく感じているのだろう。 生徒会の代替えだって終わっているのに、まだまだ私たちは修行が足りないみたいだ。ま、たまにはそういうのもいいでしょう。 「ねえ栞菜、最近は新しくできた部活動ってあるの?全然顔出せてないからさー、変わったこととかある?」 「んー、そうだなあ。我が文芸部が、漫研と合同になったり…。初等部に女子レスリング部ができたとかできないとか? あと、りーちゃんがアイドル研究会を作ったみたいだかんな。まあ、部室は熊井ちゃんの“抹茶詳しい奴ちょっと来い”と一緒みたいだけど」 「スレタイかよ」 「あら、まんけんというのは、何かしら?」 熊井ちゃんの怪しい部活はサラッとスルーし、お嬢様が関心をお示しになったのは、意外なところだった。 「漫画研究会ですよ、お嬢様。読んだものの考察をしたり、自分で描いたりする人もいるみたい」 「漫画・・・」 お嬢様の目が、キラッと光った。 「お?お?興味あります?来ちゃうかんな???我が部のたゆたゆマスコットになるかんな?」 「絶対ダメ。かんちゃんが携わってる部なんて、可憐でおしとやかなお嬢様の情操教育に悪すぎるケロ!」 ――元漫研・現文学&漫画研究会の皆さん、とばっちりご愁傷様です。 「でも、なっきぃ。この前、つばさに内緒で漫画雑誌を貸してもらったのよ。 お母様は活字の本にしなさいと言っていたけれど、千聖は漫画も素敵な書物だと思うわ。 漫画を研究なさっている方のお話、ぜひ伺ってみたいわ」 ああ、たしかに。最近のお嬢様は。私と二人で中庭で和んでいるとき、たまに少年漫画を持ってきている。 色々なジャンルのお話が読めるのよ、と嬉しそうにしてたっけ。 「キュフゥ…」 「まあまあ、いいじゃないかなっきぃ!私が一緒についていくから、ね?栞菜の有害図書は見せないようにするし」 「オゥフwww信用ゼロだかんなw」 「当然舞もついてくよ。マンガとか、子供っぽいの興味ないけど。ちしゃとは舞がいたほうが安心するだろうしね」 「・・・まあ、みぃたんがそう言うなら」 どうやら、今日の部活動見学先は決まったようで。 わくわくと目を輝かせているお嬢様。。いい部活動に巡り合えるといいですね。 そんなことを考えつつ、昇降口でみんなとバイバイして、同学年のお嬢様を二人きりになる。 「うふふ、千聖のわがままに付き合ってくださって、本当にうれしいわ」 「そうですねえ、みんなも楽しそうで。特に舞美ちゃん、すごいはりきってる。ケッケッケ」 「何か、私も取り柄が得られるような部活動を探せたらいいのだけれど」 そう言って、お嬢様はふいに足を止めた。 「どうかされました?」 「・・・ウフフ、なんでもないわ。愛理、放課後、よろしくね」 肩をすくめた、かわいらしい三日月笑顔。 だけど私は、お嬢様の意に反する、少々残念なお知らせをしなければならなかった。 「ごめんなさい、お嬢様。 今日は私、部活がありまして」 「ええ、知っているわ」 「お?」 その笑顔が、いたずらっぽい上目使いに変わっていく。 「なにも、1つしか見学しないわけじゃないのよ」 「お嬢様・・・」 ぽつぽつと、お嬢様が前にお話しになっていたことが頭をよぎる。 “歌うのが好きだけれど、愛理のように、上手に歌えないから” “千聖が中庭で歌っていたこと、みんなには秘密にしてほしいの。きっと笑われてしまうわ” “一緒に歌ってくださる?愛理の声と重なったら、私なんかの歌でも、美しく響くかもしれないわ” 「・・・合唱部、見学してもいいかしら?」 お嬢様のほっぺたが、心なしか紅潮している。 言葉では表せないような感情が、体中を駆け巡っていくのがわかった。 自分の顔も熱くなっているのを感じながら、私は何度も大きくうなずいた。 州´・v・)<・・・ 黒´・v・)<栞菜が文芸&漫研でやらかしますように。お嬢様が1秒でも早く合唱部に来てくれますように。 (o・ⅴ| (o・ⅴ・)<共感できる部分はあるものの、それを認めてしまうと、自分の大切な何かを失う気がする。それが黒愛理ちゃんでしゅ 黒´・v・)<千聖お嬢様と流浪の民を合唱できますように。その際、ソロパートをなっきぃに振ってちょっとしたハプニングが楽しめますように。もしくは熊井ちゃんが乱入してきて、間奏で魂のラップを(ry 次へ TOP
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前へ 「・・・同性同士で、お友達以外の関係というのは、どのようなものがあるのかしら?」 放課後の生徒会定例会議。 雑談中、千聖お嬢様がふと発した言葉で、沈黙が流れる。 私も一瞬何のことだかわからなかったけれど、そういうことかと思い当たって、ニヤリと笑ってしまった。 「ケッケッケ」 愛理も察したらしく、いつもの個性的な笑い声を漏らしている。 ――告白されたな、お嬢様。 すごいな。この超お嬢様に、そんな大胆なことをする生徒がいるとは。 少し前までは、見えざる力(というか妄想)で、ある種恐れられていたお嬢様なのに、このぽわぽわしたキャラクターのおかげなのか、今はどちらかというと、慕われ関心を持たれる存在になっているみたいだ。 「んー・・・例えばだけどぉ、同性でも、恋人同士っていうのはあるんじゃない?」 みんながちょっと言いよどんでいる中、私のベイビーちゃんこと梨沙子が、髪の毛をいじくりながらつぶやく。 「まあ、男子と女子が付き合うのがフツーなのかもしれないけどぉ」 「あはは、梨沙子もみやと付き合えたらいいね」 「あばばば何言っそんっわた(ry」 もぉ軍団の漫才はさておいて、梨沙子のその回答は、お嬢様的にはピンとくるものではなかったみたいだ。さっきよりも難しい顔をしている。 「お嬢様、告白っていうのは必ず気持ちを受けとめなきゃいけないわけじゃないんですよ。 お断りしたいと思ったら、そう伝えればいいんです」 私や愛理と同じ結論に至ったのだろう、なっきぃが至極真面目な顔でお嬢様を諭す。 「そうだかんな。お嬢様には俺というアレがいるんだかんな。それ以外のあれはまあ、それだかんな」 「かんちゃんは黙るケロ!」 「あ・・・あの、告白というわけではないのよ」 おや、先走りすぎたみたいだ。 じゃあ一体何のことを・・・。舞ちゃんの顔をチラ見すると、ニヤニヤしている。お嬢様のこととなると、途端に心が狭くなる舞ちゃんがこういう表情なら、少なくとも悪い話じゃないというわけだ。 「ふふん、はっきり言えばいいのに。知らない生徒に妹になりたいとか言われて、混乱してるって」 「もう、舞ったら」 「あー、なーんだ!そっちか!」 私はおでこをパチンと叩いて“あちゃー”みたいなジェスチャーをしてみせた。 途端に笑う、もぉ軍団。・・・はいはい、どうせリアクションが古いですよ、私は! 「今さ、学園で流行ってるんだよねー、姉妹ごっこ」 「ほら、舞の言ったとおりでしょ?ふふん、ただの遊びでちしゃと悩みすぎだし」 どうやらガチ告白というわけではなかったようで、安心したというかなんというか・・・。まだまだお子ちゃまなお嬢様に、恋だの愛だのはまだ刺激が強すぎるとママは思います!(キリッ) 「へー、お嬢様もそういうの言われたんだ!」 「“も”ってことは、まままさか友理奈ちゃんも!?」 「うん、何か手紙もらったよー」 うわぁ・・・。 口に出さないまでも、なっきぃがあからさまに引いた顔をしている。小熊軍団的なものを想像したんだろう、多分。 「てか、ぶっちゃけみんな言われてるんでしょ?姉妹になってください的な。はい、言われた人、挙手!」 舞ちゃんの号令で、反射的にビシッと右手をあげる私。 予想通り、手を下げたままの人は一人もいない。みんな、何らかの形でこの学園内のブームに巻き込まれているようだ。 「ふふん。ほら見ろ。・・・ってか有原もかよ。選んだ奴マジキチでしゅね」 「はーん?あたしは姉も妹も打診がいっぱいあったかんな。萩原なんてどうせ(自主規制)奴隷にしてくださいとかだろ」 「(自主規制)奴隷?それは何かしら」 「えーと、それはねお嬢様」 「熊井ちゃんマジレス禁止!」 「・・・それで、みんなはどんな返事をしたの?」 しばらく黙ってニコニコしていた愛理が、いつもののほほん口調で問いかける。 「どんなって・・・愛理は?」 「ケッケッケ?」 「ええ?」 ――この悪女め! 「あ、うちはねー、いいよ!って言ったよー。お姉さんにもなるし、妹にもなるって」 「ギュフ!友理奈ちゃん、何考えてんのっ」 「別にいいじゃーん。楽しそうじゃない?そういうの」 まあ、これは予想通りだ。 玩具が手に入れば、とりあえず興味を示して遊ぶのは野生動物・・・いや、羆・・・というか熊井ちゃんの習性。 姉や妹志願の勇気ある生贄さんたちが、熊井ちゃんの中身をちゃんと理解しているのか、はたまた単なるメンクイさんなのかで、大分今後の展開は変わってくるだろうけど。 「・・・舞ちゃんは、全部断ったんでしょ?即答で」 一人一人聞いてくのもなんだし、私はばしばしと言い当てていくことにした。 「・・・あ、うん。そうでしゅけど」 「へへー、当たった!じゃあ、梨沙子。梨沙子は“おねーちゃんになってください!”とは言われなかった。そんで、“妹になってください”についてはごめんなさい。でしょ?」 「すごい!ママ!・・・だって意味わかんないし」 「なっきぃは姉妹どっちの話もあったけど、保留になってる。ぶっちゃけ、いい辞退の文句を探している。違う?」 「キュフゥ・・・」 「次、栞菜。あんたは・・・侍らせてるでしょ、すでに何人も」 「はーん?まあ、姉や妹は何人いてもいいはずだかんな。浮気とは違うから。ね、お嬢様はぁーん」 「え?・・・よ、よくわからないわ」 「お嬢様に話を振らない!そんでもって・・・愛理は・・・」 「・・・ケッケッケ?」 「ああ、はいはいケッケッケですね愛理ちゃんは」 「さすが茉麻ちゃんでしゅ。舞が見込んだだけのことはあるね」 まあ、我ながらいい分析だったと思う。推理ゲームみたいで楽しい。 ここにいない千奈美とみやは・・・そうだな、意外と気難しい千奈美なんかは「考えとく!」で全部はぐらかしそう。 みやはちょっと美人すぎて、そういう申出はそもそもなさそう(ガチ告白のみ)だけど、琴線に触れるものがあれば認めてあげてもいいよ、的な。 「茉麻ちゃん、頼もしいケロ。キュフフ、日ごろから生徒を良く見ている証拠だねっ」 「ケッケッケ、大当たりだったねー」 「(いや、あなたのことはよくわかr)なんのなんの、褒めすぎでしょー」 謙遜しつつ、ちょっとお鼻がピノキオになってしまっているのがじぶんでもわかる。 生徒会長として、役員それぞれのパーソナルを把握しておくのは基本だしね。読んでてよかった、某蝶ネクタイメガネバーロー探偵マンガ! 「てゆうかー、肝心の茉麻は?」 そんな鼻高々な私に、熊井ちゃんが問いかけてくる。 「あー、私?今は特に、妹っていう存在はいないかな」 「今“は”?じゃあ未来は?」 「んー。わからないな。1つ言えるのは、お相手の素性がわからないのに、いきなり姉妹関係は考えられない」 真ん前に座っている、お嬢様の顔がパアッと明るくなった。このおかしなブームに関して、私と同じような感想を持っていたみたいだ。 単なる遊びとはいえ、“姉妹”という言葉は重い。少なくとも、私の感覚ではそう。 その言葉で結びつくことを望んでいるのなら、大げさかもしれないけれど、履歴書かなんかを提出してほしいぐらいだ。 「お堅いよねー、茉麻は。もっとかるーく自由に考えればいいのにさー。若者は愛し愛されて愛を知るのさ。恋愛のプロのうちとしてはそう思うよ。ラブ&ピース!」 「・・・どんだけプロの敷居低いんだよ、恋愛業界って」 まあ、こういうのは一過性のものだし、別に気にするほどのことじゃないだろう。前のガングロギャルブームと同じ。 そう思って、このときは笑っていた。・・・この“姉妹ブーム”が、思わぬ大波乱へと発展していくことなど、知る由もなかったから。 次へ TOP
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避難所 少年スレ@新狼 階段スレ@℃-ute板 本編 →本編目次(for携帯) 番外編 千聖ノート (o・ⅴ・)の妄想 舞ちゃん編Ⅰ章 1 2 舞ちゃん編Ⅱ章 1 2 りーたん編 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 桃ちゃん編 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 舞ちゃんとアーッ編 1 2 3 4 5 明日菜編① 愛理編 1 2 3 4 なっきぃ編 1 2 3 4 明日菜編② 茉麻編 1 2 3 FOREVER LOVE 千奈美編 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 舞美編 1 よろセン愛理編(仮) 1 クリスマス特別編 奥様茉麻編 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 岡井少年の日常 世界迷作劇場 靴磨きの岡井少年1 2 3 4 なきまいまいみの誕生日 1 2 3 4 5 6
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前へ まず目線主からお願いします 1.リ*・一・リ<舞・・・オロオロ 2.从o゚ー゚从<先生連れてきた!・・・あれ? 3.ノノl∂_∂ ル<なんか騒がしいなあ わーい始まった♪ 2かなぁ・・・ 一昨日はハロコンでこっちは参加できなかったけど今日は参加したす! 1お願いします 果たしてけが人は、お嬢様か。舞ちゃんか。はたまたその二人なのか。 わからないけれど、あのものすごい音から察するに、大変なことが起こったというのは間違いないだろう。 「先生、一緒に来てください!」 校内を見回ってた先生をつかまえて、階段まで戻ると、急にドンッと誰かがぶつかってきて、そのまましがみつかれてしまった。 「ひっく」 「・・・なっきぃ?」 「まーさちゃ・・・ひっく、舞、ちゃ、ひっく」 目を真っ赤にしたなっきぃが、しゃくりあげながら、必死で何か伝えようとしてきている。 「まさか・・・なっきぃ、救急車、必要?」 無言で首を振るなっきぃ。すると、その後ろから舞美も走ってきた。 「先生、茉麻」 普段の天然具合がうそのように、シリアスな表情。私と先生にも緊張が走った。 「落ちたんだよね、階段」 おそるおそるそう聞くと、舞美は無言でうなずいた。 「悪いけど様子、見てもらっていい?私はなっきぃを」 「ん?・・・うん、わかった」 さすが、黙っていればキリリ美人の生徒会長。こういうピンチの時には、冷静に指示を出してもらえるだけで落ち着く。 「あ、茉麻ちゃん!」 階段を降りかけたところで、中腹あたりにスタンバッていた栞菜が手を振ってきた。 「大丈夫なの?」 「あ、先生も・・・うーん」 「うーんて」 なっきぃとは違って、栞菜はなぜか苦笑している。 ということは、少なくとも重傷ではなさそうだけど、一体・・・ 「とりあえずですね、舞ちゃんと千聖お嬢様が階段のとこでもみあいになって、落ちちゃって」 「えっ!!」 多額の寄付金を納めてくださっている方のお嬢様の、怪我。 先生の顔が青くなった。 「あ、お嬢様は大丈夫です。舞ちゃんが身を挺してかばったから。ただ・・・、ね」 チラッと後ろを向く栞菜にならって、階段の下を覗き込むと、熊井ちゃんに抱き起こされた舞ちゃんが、お嬢様の手を握ってこう話しかけていた。 1.(o・ⅴ・)<・・・ククク、暗黒の扉が開かれたようだな・・・(厨2) 2.(o・ⅴ・)<君、かわうぃーね♪ぽいぽいぽぴー♪(チャラ舞) 3.(o・ⅴ・)<舞、あたまがいたいでしゅ・・・クスン(炉利舞) ここは1で舞様に暴走してもらいましょうかw 階段編とは違ったお子さまいまいを! 3お願いします うーん3で うーんきつい・・・ 2で栞ちゃんと暴走するというのは・・・ 1→2→3の順番に変移とかw 「ちしゃとおねえたん、まい、おうちにかえりたいの。ふえーん」 「えっ・・・」 「これは・・・」 トレードマークのきりっとした目はウルウル潤んで、意思の強さを表していた眉もすっかり下がってしまって、舞ちゃんはまるっきり、か弱い女の子みたいに・・・いや、それ以前に! 「ななな、なに、どうしたの?幼児退行?」 「わかんないんだけど、おもいっきし頭ぶつけて、ちょっと脳の回線がおかしくなったような」 普段の舞ちゃんからは想像もできないような、その姿。 手を握られているお嬢様も、きれ長なお目目を見開いたまま、絶句してしまっている。 いつもお嬢様のそばにいて、外敵(自分以外の学生の総称)からお嬢様を守っていたはずなのに、今の舞ちゃんときたら、まるきり弱弱しくて、まるでひとりじゃ何もできない幼稚園児の子みたいで・・・ 1.川*^∇^)<よーし、ゆりなお姉さまがたかいたかいしてあげよう! 2.从o゚ー゚从<・・・か、かわいい・・・私のベイビーちゃん・・・ 3.リ*;一;リウッウッ舞・・・ 選択になっていないのですが 1・2でくまぁさの大暴走が見たい! ゆりなお姉さんが高い高いしたら天井で頭ぶつけちゃうからダメw 2.3.をあわせて泣き出したお嬢様と舞様をまーさが優しく抱擁する感じでお願いします 消去法で考えてみました これだと1で熊さんがとんでもないことをやらかしそうなw 熊井ちゃんに期待したいけどあえてここはママを 2お願いします 2で舞様をママが優しく慰めて 1でお嬢様を熊井ちゃんが暴走気味に慰める(昨日の「巨乳事件」つきで)というのは 「か・・・かわいい・・・」 「は!?」 気がつくと、私は無意識にそうつぶやいていた。 「しっかりしてよ、茉麻ちゃん!茉麻ちゃんはそっち側の人間じゃないはずだかんな!」 「だ、だって、あのちょー生意気な舞ちゃんが・・・ふえーんて・・・」 ピンク、ちっちゃい動物、かわいいキャラクターグッズ。 似合わないと言われるのがいやだったから、あまり身に着けることはなかったけれど、私はちっこくてかわいいものが大好きだ。 まるで、学園に迷い込んできたちびっこが、必死で助けを求めているようなその仕草に、私はたいそうときめいてしまった。 「よーし!舞ちゃん、いつまでも泣いてちゃだめだよ!人生七転八倒って言うし!」 「ふえ・・・」 「ゆりなお姉さまが遊んであげるからね!それったかいたかーい!」 ちょ、まて、お前 唖然とする私たちなんかお構いなしに、たのしげな熊井ちゃんが、舞ちゃんをぽーんと放り投げる。 その軽い体は簡単に宙を舞い、舞ちゃんは階段の中腹にいた私たちのところまで、ぶん投げられてしまった。 「うわあっ」 とっさに抱きとめたから無事だったものの、あやうく大怪我第二波を食らわせるところだった。 「くーまーいちゃーん!」 大人だろうと子供だろうと、手加減無用でいつも自然体に接するのが熊井ちゃんの良さなんだけど・・・にこにこ笑って「ナイスキャッチ!」とか言われると、怒る気もうせてしまう。 「茉麻が受け止めてくれるって信じてたから、うちは舞ちゃんをたかいたかいしたんだよ!」 「・・・それはどーもね」 まったく、どこまで本気で言ってるんだか・・・ 「・・・舞」 すると、ずっと黙り込んでいたお嬢様が、ふらふらと私たちのところへ歩いてきた。 「舞・・・」 小さな手で、舞ちゃんのほっぺたを包む。 「ちしゃとおねーたん・・・」 「舞・・・、私のせいで、ごめんなさい・・・」 みるみるうちに、顔がくしゃっとゆがんで、涙がぽろぽろ落ちていく。 「お嬢様のせいじゃないよ、泣いちゃだめだよ。」 ℃変態じゃないときはいい子な栞菜も、励ましながらすでに泣き出しそうになってしまっている。 ああ、なんて、いい子たちばかりなんでしょう。私は舞ちゃんを抱いたまま、お嬢様と栞菜に手招きした。 「・・・大丈夫、大丈夫。みんなまとめて、まぁが守ってあげるからね。おいで」 「まあささん・・・」 「まーさぢゃん・・・うわああん」 「まーさー!ヒーン!!」 ――熊井ちゃん、マジ自重!! それから私たちは、保健室に移動して、これからどうしたらいいのかを話し合った。 「グスッ・・・まい、おなかへっちゃった・・・」 「お嬢様が母乳をあげたらいいんじゃないかな!だってそんなおっぱいだし」 「くーまーいー!ギュフー」!!」 舞ちゃんはグスグスと泣き続けている。もういいかげん、家に帰らなきゃいけない時間だし、困ったな。 1.(o・ⅴ・)<おやしきに帰るでしゅ 2.(o・ⅴ・)<舞のほんとうのおうちにかえるでしゅ 3.(o・ⅴ・)<やだやだおなかへったうわーん 熊井ちゃんwww 3お願いします 3だねw 3で 熊井ちゃん・・・それじゃ人生転んでばかりだよw 舞様のだだっ子がみてみたいので3で 「お屋敷、戻る?みおん様の分のベビーフードもあるだろうし・・・舞、もう少し我慢してね」 「や・・・」 「ん?」 舞美ちゃんがにっこり話しかけるも、舞ちゃんは口をへの字にして首を横に振った。 「まい、おなかへってゆの!いまたべたいの!ふえーん!」 「そ、そんなこと言っても・・・」 「ごはん!おかし!たべゆの!わーん!」 ――は?そんなの特殊相対性理論に基づいて考えれば一発でしゅよ?因果律がどうのこうの ――は?もっとロジカルシンキングでコンプライアンスなイノベーションがどうのこうの いつもは人をくったような顔で、小難しい言葉をぽんぽん投げつけてくるその唇が、赤ちゃん語を発している。 小難しいことを言わなければ、この子こんなにもかわいいんだな・・・なんて、私は場違いなことを考えてにやにやしてしまった。 「どど、どうしよう茉麻ちゃん。私一人っ子だから、ちびっ子の相手はよくわからないんだよぅ」 栞菜が耳打ちしてくる。もう一回あやしてあげたら、少しは落ち着くかな?なんて思って、私は舞ちゃんに手を伸ばしかけた。 「ん?」 1.リ*・一・リ<ウフフ、抱っこしてあげる、いらっしゃい 2.リ*・一・リ<執事に料理を持ってこさせましょう 3.リ*・一・#リ<わがままを言わないの、舞! 1かな 1で舞様の反応を見てみたいです 1だね 最近評判の若執事さんの手料理も捨てがたいが・・・ 1お願いします 長女で優しいお嬢様らしく1.で 1で栞ちゃんの反応が見てみたい 1だと茉麻とお嬢様で赤ちゃんの取り合い? 「ウフフ」 私よりも一足早く、お嬢様が泣き喚く舞ちゃんの前に立った。 「グスッ・・・ちしゃとおねーたん」 「あらあら、そんなに泣いてしまって。せっかくのかわいいお顔が、台無しよ」 レースのティッシュケースから、柔らかそうなペーパーを取り出して、お嬢様は優しく舞ちゃんの顔をぬぐった。 「ふふ、くしゅぐったい」 さっきまでの爆発がうそみたいに、舞ちゃんはキャラキャラと楽しそうに笑い出した。 「いい子ね、舞。いらっしゃい」 「うん!」 舞ちゃんはお嬢様に飛びついた。お嬢様は赤ちゃんを寝かしつけるみたいに、舞ちゃんの頭を胸に押し当てて、髪を優しくなでてあげている。・・・ママの顔、してるな。 「ウフフ、赤ちゃんは、おっぱいが好きなのよ。・・・ああ、でもね大きな熊さん、私は母乳はまだでないのよ」 お嬢様、まさかのマジレス。 「私の末の妹もね、こうして顔を胸に押し当てると、安心するみたい」 「私は興奮するかんな」 「かんちゃんっ!」 ℃変態さんも調子を取り戻してきたようで、何よりです。 やがて、舞ちゃんの口元から、すーすーと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。 完全に体から力が抜けて、お嬢様に身をゆだねてしまっている。 「では私が子守唄を一曲!あーいーのだんがんー!!!」 「やめるケロ!」 どれだけ騒いでも、もう微動だにしない。疲れてたんだろうな、と改めて感じた。 「・・・舞の寝顔、かわいいねぇ」 「ちょっと、舞美ちゃん!ムービー撮ってる場合じゃないでしょ。・・・あ、でも早貴も一枚だけ。キュフフ」 舞ちゃんの状態は心配だけれど、何でも楽しんじゃうこの面々だから、みんなレアな舞ちゃんのお姿に興味津々だ。 「・・・家に帰ってから、千聖の主治医に見せましょう。きっと、一時的なものだとは思うけれど。 舞はいつも難しいことばかり考えているから、心が休憩したがっていたのかもしれないわね。ウフフ 私たちがいつまでもとまどっていては仕方ないわ。舞のためになることを考えましょう」 「お嬢様・・・」 ふだんは泣き虫なお嬢様の、意外なほどに前向きな言葉。 やっぱ、お姉ちゃんなんだな、この子は。なんて、あらためて実感させられる。 「お屋敷まで、私がおんぶしてきますよ、お嬢様!」 「あら、いいの?運転手に来させようと思っていたのだけれど」 「いいっていいって。みんなとワイワイ帰ったほうが、舞ちゃんもうれしいだろうし」 私はよっこいしょと舞ちゃんの体を持ち上げた。 「・・・軽いなぁ。成長期なんだからもっと食べさせないと」 「そうね。舞は偏食なのよ。それに、小食だから。もっとメニューを考えないとね」 あなたたち、どこの夫婦だかんな。という突っ込みを受けながら、私たちは玄関口へと歩いていった。 目線変わります 1.州´・ v ・)<なんてこったい 2.州*‘ -‘リ<こわっ! 3.他(お名前を書いてください) 桃ちゃんを乱入させるとかなり面白そうな 愛理は何してたんだろう・・・ ということで1 前作の選択小説の階段編で目線がなかった愛理を・・・ いやここは鬼軍曹×幼児舞ちゃんかな 3お願いします 寮生で愛理とえりかちゃんだけ出てないから2で りーちゃんは雅ちゃんと帰った事にして 3で久し振りの梅さんを ※目線はお名前の多かったあいりんですが他に挙がったメンバーもからめていきます! 「・・・」 「・・・」 私はえりかちゃんと顔を見合わせて、ふへっとおかしな笑い声をもらした。 「・・・というわけだから、舞ちゃんはしばらく赤ちゃんだからね」 「いや、ぜんぜんわかんないです」 なっきぃから、舞ちゃんが学校で頭打ったという話を聞いた私たちだけれど、なにやら言ってる意味がよくわからない。 人格が、変わった・・・?いやいや、そんなことあるわけがない。小説や漫画じゃないんだから。 舞ちゃんがわるふざけをしてる、あるいはみんなで私たちにドッキリをしかけようとしてるとしか、考えられない。 「・・・え、そ、それって、食事は、やっぱ赤ちゃん用?」 「えりかちゃん!」 でも、私とは違って、えりかちゃんは深刻な顔でなっきぃに問いかける。 さすが、寮生1のピュア姉さん。エイプリルフールには、寮生全員からだまされるという(あのお嬢様にまで!)ミラクルを巻き起こしたことが思い出される。 「あ、ご飯は大丈夫じゃないかな。人格だけみたいだし。私もさっき、ベビーフード必要?って考えちゃったけど、まあ、舞だし!」 「雑だなあ、みぃたんは・・・。でも、今日は二人が作ってくれたんでしょう?だったら、舞ちゃんも喜んで食べてくれると思うなあ」 「そ、そっか」 舞ちゃんはまだ、お屋敷のエントランスのソファで寝てるから、実際どういう状況なのか、まだ私とえりかちゃんはわかっていない。 なっきぃの言うとおり、今日はみんなのために、お屋敷の厨房を借りて、私たちで料理を作った。 果たして、食べてもらえるのだろうか。・・・いや、それ以前に、大丈夫なのか、舞ちゃん。 「で、今日のメニューは?」 「舞美が食べラー食べたいってメールしてきたから、それ関係で何品か」 「本当!?えり、優しいなぁ!・・・あ、もう並べてあるでしょ!見てくる!」 舞美ちゃんは無邪気に鼻をひくつかせると、食堂のほうへ走っていってしまった。・・・こんな大事件があったのに、舞美ちゃんたら、ぶれないんだから。 すごい人だ。 「インゲンと豚肉の辛子醤油和えもあるよ」 「本当?舞、きっと喜んでくれるわね」 舞ちゃんの背中をなでながら、お嬢様がうれしそうに微笑する。 「ウッ・・・そうですね、お嬢様・・・うぅ・・・」 「えりかちゃん、何で泣くんすか」 さすが、喜怒哀楽すべてを泣きで表現できる女、梅田えりかさん。 いろいろ大変な自体が一気に舞い込んできて、混乱してしまったのだろう。 「んー・・・」 そのとき、舞ちゃんが首を軽く振りながら目を覚ました。 顔はもちろんいつもの舞ちゃん。 でも、顔つきというか表情があきらかに違っていて・・・ 「・・・あいりおねえしゃん」 「ひええ」 したったらずにそう呼ばれて、私はとっさに後ろに飛びのいた。 「えりかおねえしゃん」 「そ・・・そうだよ、えりかおねえちゃんだよ!うわーん」 えりかちゃんはもはや何泣きなのかもよくわからない。 ただ、今のやりとりではっきりわかったこと。 これは、決して悪ふざけやいたずらではなさそうだ。 舞ちゃんがいたずらを仕掛けるときは、必ずニヤニヤが抑えきれなくなっている。 それがないということは・・・そういうことなんだろう。 「舞ちゃん、ご飯食べよう」 だから、私はあえて、いつもと同じように接することにした。 どうしたらいいのかわからないなら、自分で確かめるしかないから。 「うん、たべゆ!」 お嬢様に手を引かれる舞ちゃんを見ながら、私はごくりとつばをのみこんだ。 ―食堂― 1.(o・ⅴ・)<・・・まい、これたべたくないでしゅ 2.(o・ⅴ・)<まい、これもっとたべゆ!(℃変態さんのお皿に箸を・・・) どっちもアリとも思うけど℃変態を悪役にはしたくないなあ 1で わがままままいまい希望 1お願いします 食べラーで更に変わったりして と言うわけで2で 1で「たべさせてくれるならたべるでしゅ」みたいな・・・ おいしそー」 満面の笑顔の舞美ちゃんを見て、私もつられて笑う。 「ちょっと辛い料理に偏っちゃったけどね、今日は舞美のりクエストで、えりかの自家製食べるラー油料理です!」 「た、食べラー・・・」 「大丈夫だかんな、これは熊井ちゃんのアレとは関係ないよ!」 なっきぃと栞菜は最初なぜか怯えた表情をしていたものの、一度箸をつけたら口にあってたらしく、パクパクと食べ進めてくれた。 「お嬢様、お味はいかが?」 「ええ、とてもおいしいわ。この、焼き豆腐のあんかけが・・・あら、舞ったら、握り箸をしてはだめよ。こうやって、中指を挟んで・・・」 「ぶーっ」 お気に入りの、インゲンと豚肉の辛子醤油和えに箸を突き刺して食べていた舞ちゃん。 お嬢様に指を治されたのが面白くなかったのか、ぽいっと箸を放り出して、「舞、もう食べないでしゅ」とそっぽを向いた。 「わがままを言うんじゃないの、舞ったら」 「だって、ちしゃとおねえたんがいじわるするんだもん」 「後でおなかがすいても、お夜食は準備しないからね。メイドたちにもそう伝えておくわ」 「うぅ~っ」 ぽわんぽわんに見えて、千聖お嬢様は譲らないところは絶対に譲らない。 舞ちゃんが足をバタバタさせても、一向に気にも留めていないようだ。 「どうするの、舞。食べるの、食べないの?」 「・・・あれ、でもー、お嬢様もこれ、手をつけてないですねえ」 今にも泣きそうな舞ちゃんの背後から、声を出したのは、メイド服の目力美人さんだった。 「ま、まあ、何を言っているの、め・・・村上さんったら」 「ほら、この茄子田楽。ラー油のお味噌がたっぷりかかっておいしそうなのに、お嬢様ったらノータッチじゃないですか」 ――あれ、それはお嬢様のところに配らないでって言ったのに。めぐぅめ。謀ったな。 「ちしゃとおねーたん、なしゅたべないの?・・・ふふん」 幼児仕様のそれだったはずの舞様のお顔が、みるみるうちににやーっとゆがんでいく。・・・元の舞様のDNA(?)を感じて、私は身震いした。 「食べないのー?お嬢様?」 「たべないでしゅかー?おじょーたま?くふふ」 めぐぅとしては、べ、べつにアンタの手助けをしてやったわけじゃないんだからね!といったところなんだろうけど、舞ちゃんと二人で、まあうれしそうですこと! 「うぅ・・・・」 1.リ*・一・#リ<た、食べるわ!見くびらないでちょうだい! 2.リ*・一・リ<・・・さて、デザートのアイスを食べましょう 3.リ*・一・#リ<せーのであーんして食べるのよ、舞! 3かなぁ・・・ 2と迷ったけど 1お願いします ここは1で 負けず嫌いのお嬢様に2.は似合わない気がする やっぱりお姉さんらしく3.かなぁ 3で 「た・・・食べるわ。ええ、もちろんよ。千聖はこのお茄子が楽しみで、最後までとっておいたのよ。ウフフフフヒヒヒ」 「お嬢様、無理することないですよ!ほら、えりのハンバーグと交換しましょう」 「あら、当方のお嬢様を見くびらないでいただきたいですね、梅田さんたら。召し上がるとおっしゃってるんですから、召し上がっていただきましょう。オホホホ」 もう、完璧にSの顔になってるめぐぅ。 幼児キャラになってるくせに、舞ちゃんたら肩を組んで「なーしゅ、なーしゅ」とニタニタ笑いながらコールをしている。 「・・・そのかわり」 「ふえ?」 「お互いに食べさせあいっこしましょう、舞。まず、私が舞にこれを食べさせてあげる」 「むぐぐ」 お嬢様はインゲンと豚肉の辛子醤油和えを、器用に山盛り箸でつまむと、舞ちゃんの口に押し込んだ。 「おいしい?」 「んぐ」 舞ちゃんは目を白黒させて、こくこくうなずいた。 「よかったわ。 では、次は舞が私に食べさせてちょうだい。ちゃんとしたお箸の使い方で、ね」 「んーっ」 ・・・なるほど。 さっきのお箸使いのこと、忘れたわけじゃなかったんだな。 ちゃんとトレーニングに結び付けるとは、さすがお嬢様だ。 「で、できましゅ。まいにだって」 「あら、それは駄目といったでしょう?刺すのではなく、きちんとお箸で掴んで」 「むぅ・・・まい、やだ」 「あら、舞ったら、このぐらいのこともできないのかしら?ウフフ」 「できゆもん!まいだって!まいだって」 お嬢様の挑発で、舞ちゃんの目に火がついた。 「舞ちゃん、がんばるケロ!がんばるケロ!」 「舞の勇姿、ちゃんとカメラで撮ってるからね、もうちょっとだ、舞!」 ――この、おかしな団結力。寮生ならではのノリ。あまり、一緒に乗り切れないけれど、私も結構好きだったりして。 「くっ・・・」 不慣れな箸づかいで、茄子を掬い上げる舞ちゃん。ぷるぷる揺れる茄子が、お嬢様の顔の前に突き出された。 「く、くちをあけゆでしゅ!ちしゃとおねーたん」 「な、なんて大胆な!舞ちゃんの太くて長いアレ(茄子)が、お嬢様のつぼみのような唇に!けしからんもっとやれ」 「かんちゃんは黙るケロ!」 必死に茄子を掴んでる舞ちゃんをじーっとみて、お嬢様はふふっと笑った。 そのまま、パクッと噛り付いて、箸から受け取ってみせる。 「ま、舞美ちゃん!もっとアップでハァハァハァハァ」 「貴様、感動のシーンを汚すな!」 お嬢様は目を白黒させながら、必死でお口のナスを租借している。 「むぐ・・・舞、ひゃんとおはし、つかえたわね。ウフフ・・・」 「えへへ、まい、なんでもできるもん!」 ほこらしげな舞ちゃんは、お嬢様のひざにのっかって、「ほら!」と残りのおかずを、正しいお箸使いで食べだした。 「フ、フフフ・・・」 嫌いなものの一気食いで、HPを削られたお嬢様もうれしそうだ。 「はい、では、デザートをお持ちしましたー」 ジャストなタイミングで、めぐぅがミルクジェラートを運んでくる。いいお口直しになるだろう。 ・・・できたメイドさんだこと。 「おいちいね、これ!」 「うん、そーだね。ケッケッケ」 笑いかけてきてくれた舞ちゃんの口の周りをナプキンで拭いてあげると、照れくさそうに微笑んでくれた。 次へ TOP
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前へ 鬼のような形相で生徒会室に入ってきた熊井さんは、まず、室内にいる全員の顔をぐるりと見渡した。 「いい?人の嫌がることをするとね、必ず自分に返ってくるんだから。 神様はちゃんと見ているの。わかった?」 うふふふ、憤る美女、何て素敵な横顔なんだろう。 だけどまだ、誰が“犯人”だかはわかっていないらしく、少し小首を傾げたあと、「よーし・・・」と気合を込めなおす熊井さん。 「そんなに言うなら、仕方ない」 「誰も何も言ってないよ、熊井ちゃん」 「まーさはそこで見守ってて!うち、今、人相学の勉強してるんだよね。将来は顔相師として食ってくつもり」 「ラッパーはどうしたんでしゅか」 「あー・・・。じゃあ、診断結果をラップで伝える的な」 「・・・なにあれ」 遥ちゃんが、苦い表情で熊井さんを見ながら耳打ちしてくる。 「熊井さん、素敵な方でしょう?」 そう答えると、ますます遥ちゃんの眉間の皺は深くなる。 正義感溢れる、素敵な先輩じゃないの。遥ちゃんたらわかってないんだから。 「よーし、では診断結果。 まず、お嬢様とまーさはクリア。優しさが滲み出てるからね。 あと、あなたも大丈夫」 私を指さした熊井さん、眼力を弱めて、にっこり笑いかけてくださった。 「あら、よかったです。うふふふ」 「ずりーよ、みずきちゃんだけ!てかあたしも違うんで!」 そんな熊井さんに猛抗議を仕掛けるのは、遥ちゃん。 「いやー、だって、あなたと舞ちゃんは・・・」 「おいコラ熊井、なんで舞が巻き込まれるんでしゅか」 「だって、どう見てもハンターの目をしてるし」 「まあ、そうなのかしら?もう、舞ったら・・・」 「なにがそうなのかしら?だよ!ちしゃとは何でも信じすぎ!」 あらあら、うふふふ。楽しくなってきちゃった。 私、何でここに呼ばれていたんだっけ?こんな生徒会漫才をライブで拝見できるなんて、なかなかないことだ。 「・・・よし、熊井ちゃんの気持ちはよくわかった」 しかし、いつまでもこう、とりとめのないやりとりを続けていられないのもまた事実で。 須藤生徒会長が、キリッと表情を引き締めて、ひとつ咳払いをした。 「いい?熊井ちゃん。私はこれから、物事の時系列を整理するために、自分が得ている情報を、一個一個言っていくからね。 ただし、誰かを責める意図はないから。何か気になることがあっても、まずは最後まで、私の話を聞いてくれる?」 ――やるな、まーさママ・・・ 萩原先輩の唇が、そう小さく動いた。 「うーん、でもぉ」 「誰が悪いかよりも、未来の事を考えるのが大事だからね。フクちゃんの言うとおり!」 ね?と私にウインクしてくる須藤先輩。・・・ああ、何て器の大きい・・・。 「んー、わかった!まーさがそういうなら、うちもそう思う!」 この通り、熊井さんも無条件で納得してくださったみたいですし。 個性派ぞろいの生徒会において、どちらかといえば控えめな印象だったけれど、とんでもない。 まず、勤まらないだろう。普通の心臓の持ち主では。 これは、私のオリジナル生徒会ペディアを更新しておかなければならないみたいだ。 「じゃー・・・まず、ね。最大の争点になると思うんだけど」 須藤先輩は起立して、小もぉさんたちのところまで歩いていった。 「宮本さんのコートを踏んづけて、足跡をつけたって、あなたたち。 本当なの?」 「それは・・・」 佳林ちゃんがぎゅっと目をつぶって、千聖お嬢様の腕にしがみついているのがわかった。 誰も何も言わない。 あんなに怒っていた遥ちゃんも、熊井先輩も(こちらはもしかしたらただ単にもう飽きt)。 じっと待つという、須藤先輩の姿勢に、みんなが無意識に倣っているかのようだった。 「・・・コートは、私が踏みました」 やがて、小もぉの中で、背の高い子がおずおずと手を挙げた。 「ほら見ろ、やっぱり・・・」 「遥ちゃん、だめよ」 「あべしひでぶ」 即座に手刀を御見舞いして黙らせる。 一瞬怯んだ小もぉの彼女も、それで再び口を開いた。 「でも、でも、わざとやったわけじゃないんです。 放課後、帰る準備してたら、教室の後ろのコート掛けから、佳林のコートが落ちちゃって。 それをうっかり踏んでしまったんです」 ――嘘くせぇ。 遥ちゃんが私にだけ聞こえるぐらいの声でつぶやく。 「そっか。でも、それなら手ではたいてあげれば、その程度の汚れは落ちたんじゃない?」 「それは・・・」 「・・・佳林に、あなたたちの気持ちに気がついてほしかったということではないかしら」 そして、しばらく口をつぐんでいたお嬢様が、小もぉさんたちに目を向けた。 いつものふわふわした声。だけど、どこか重く響いて、一番の部外者の私でさえ、少し緊張を覚えた。 「どうなのかしら」 「は、はい!」 「そう・・・。 それで、その思いは、じゅうぶんに伝わったようだけれど。佳林はさっき、私みたいな頼りない人間の前で、泣いていたわ。これで満足できたのかしら」 一瞬で、室内の空気が凍った。 怒鳴るでもなく、表情も変えずに淡々と喋り続けるお嬢様。 「故意ではなかった、と言うのだから、そうなのでしょう。 だけどね、佳林はあなたたちのことを、大切な友達だと思っているのよ。 それが、どういうことなのかわかるかしら」 「そ、そうだそうだ。お前らは、佳林の心を踏んづけたんだからな。わかってんのか(裏声)」 ――あらあら、遥ちゃんたら、健気な子。 当の本人たちはというと、すでに小もぉさんたちは全員青ざめて、ひっくひっくとしゃくりあげてしまっている。 無理もない。 遥ちゃんの追撃はともかく、お嬢様からの厳しいお言葉。そして、殺戮ピエロが降臨した状態の萩原さんにまで睨みつけられて、並みの人間じゃ、こんな状況は耐え切れないだろう。 佳林ちゃんはというと、涙目になって、うつむいている。 プライドの高いタイプであろう彼女の心境を想像すると、少々可哀想な気もするけれど・・・ふわふわと綿雲みたいに穏やかな千聖お嬢様に、ここまで庇われるというのは、それはそれでうらやましかったり。 「まあまあ、それぐらいにしてあげなさい」 そんな中でも、須藤生徒会長は、やっぱりあくまで落ち着いていた。こんな状況なのに、笑っている。 それは不謹慎とかじゃなくて、そうすることで、少しでも空気を柔らかくしようとする思いやりのように感じられた。 ちなみに熊井先輩は寝・・・深く目を閉じて、睡m・・・いや、何かじっくりと考えている御様子。 「・・・ごめんなさい」 「気にすることないっすよ(裏声)」 生徒会長の言葉で、千聖お嬢様もいつもの柔らかさを取り戻したようだった。 次へ TOP